2017年09月11日

にちふさが

にちふさが

わが友人のアロスは高原の全部隊の指揮官でもあり、この国の最後の希望が双肩にかかっていた。このときアロスは対峙すべき危難について語り、ロマールの民のなかで最も勇敢なオラトーエの男たちに熱弁をふるい、かつて大氷河が押し寄せてゾブナから南進せざるをえなかったとき(われらの子孫たちでさえいつかはロマールの地から逃げ出さねばならないが)、行く手った腕の長い毛むくじゃらの人食いグノフケー族を、祖先が雄々しくも華ばなしく蹴散らした史実をもちだし、その伝統を維持せよと勧告した。わたしは虚弱なうえに、緊張や辛苦にさらされると不思議と昏倒してしまうため、アロスもわたしを部隊に組み入れはしなかった。しかし連日長時間にわたって、ナコト写本やゾブナの父祖たちの知恵を研究しているにもかかわらず、わたしはオラトーエで一番目がよかったので、わが友人はわたしが無為にすごすのを望まず、またとない重要な任務にわたしをつかせた。わが軍の目の役目を果たさせるべく、わたしをタプネンの物見の塔に送った。イヌート族がノトンの峰背後の隘路《あいろ》から砦に達し、守備隊に奇襲しようとするなら、わたしが火を焚《た》いて待ちかまえる兵士たちに知らせ、攻めこまれるのを防ぐのである。
 屈強な男たちはすべて山道の守備についたため、わたしはひとりで塔に登った。何日も眠っていないことで、興奮と疲労のあまり、頭が痛んで目もくらみそうだったが、祖国ロマールはもとより、ノトンとカディフォネクの山峰にはさまれる大理石都市オラトーエを愛してやまないために、断固たる決意を固めた。
 しかし塔の最上階に立ったとき、遙か遠くのバノフの谷にたれこめる靄を通して、欠けゆく三日月が赤く不気味に揺らめいているのが見えた。そして屋根の開口部から見える青白い北極星は、その輝きがちらついて、あたかも生命を備え、悪鬼や悪魔のごとく睨めつけているかのようだった。北極星の魂魄《こんぱく》が悪しき言葉を囁きかけ、わたしの心をなだめて背信の眠りにつかせようと、忌《いま》わしいほど調子のよい約束を何度も繰り返すように思われた。
 
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眠れよ、目をこらす者、
二万六千年の歳月を経て、
天球層がめぐり、
われがふたたびいまの場所にもどるまで。
名もなき他の星ぼしが、
天空の軸に昇るであろう。
甘美な忘却でもって、



Posted by sugarful at 12:29│Comments(0)
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